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銅触媒を用いた光励起ウルマンC-Nカップリング反応

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ウルマンC-Nカップリング反応は、銅触媒を用いてアミンとアリールハライドを通常高温化カップリングさせる反応である。ここではFuらとPetersらの共同研究により、光を照射することで、このウルマンカップリング反応を室温以下という温和な条件下達成した反応を紹介する。この光励起ウルマンカップリング反応ではアミンの一般性も増し、またアリールハライドのみならずアルキルハライドもカップリング反応に用いることが可能である。



銅触媒を用いた光励起ウルマンC-Nカップリング反応の最初の報告

2012年、FuとPetersらの共同研究により、銅触媒を光励起させた後に一電子移動を伴うラジカル的なウルマンカップリング反応が報告された。

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上図では触媒反応を描いているが、論文は銅カルバゾール錯体を等量用いた実験を行うところから始まっている。本反応は-40度というかなり温和な条件でも問題なく反応が進行するが、光照射しない場合には65度まで加熱しても全く反応が進行しない。、

以下の反応機構が提示されている。

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1価銅触媒がアミドと配位子交換し、1価銅アミドを与える。この1価銅アミドが光励起されて、還元力の高い励起状態となる。ここで、1価銅アミド(励起状態)によるアリールハライドの1電子還元が起きて、2価銅アミドとアリールラジカルが生じる。アリールラジカルは2価銅と反応し、3価銅を与え、ここから還元的脱離により、カップリング体を与える。
1価銅が光励起された状態からアリールハライドの1電子還元が起きることと、2価銅とラジカルが反応できることがポイントである。(※一般にラジカルが発生しても金属中心に乗らずに別のパスでクエンチしてしまうことも多い。)

様々な事実から上記のラジカル機構が正しいことを示している。

  1. 重アセトニトリル中での方が収率が高い。これは生成するアリールラジカルがアセトニトリルから水素を引き抜く副反応が遅くなるからとしている。実際にヨードベンゼンとの反応において、アセトニトリル中でベンゼンの生成が、重アセトニトリル中でベンゼン-d1の生成が確認されている。またこれとともにアセトニトリルから発生したラジカル同士が反応したと考えられる、スクシノニトリルの生成も確認されている。また、過剰量のヨードベンゼンを用いた場合にはフェニルラジカルとヨードベンゼンが反応したヨードビフェニルの生成も確認されている。
  2. 反応溶液のEPRスペクトルが銅を含むラジカルの生成を示唆している。
  3. アルケンへの5-exo環化はラジカルの生成の確認によく用いられているが、この反応において2-(アリルオキシ)ヨードベンゼンを用いると、環化体のみが生成する。その一方で、加熱によるウルマン反応条件では環化体は生成しない。
    しかしながら、環化体が生成したからといってラジカルが確実に生成しているとは言えない。なぜなら2-(アリルオキシ)ヨードベンゼンが銅触媒に酸化的付加した後に、アリール銅がアルケンに付加して環化する機構も考えられるからである。筆者らは末端がD化された2-(アリルオキシ)ヨードベンゼンを用いて、これの環化体のジアステレオ比が1:1となることで、この金属関与の転移挿入機構を否定している。なぜなら、銅触媒がアルケンに付加する際には一般的にシン付加するので、ジアステレオ比が1:1となることは考えにくいからである。
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  4. 1-ブロモナフタレンと4-クロロベンゾニトリルの競争実験では、4-クロロベンゾニトリルの方が反応速度が速い。これは酸化的付加機構には反する結果だが、一電子還元機構には矛盾しない(還元電位は1-ブロモナフタレンが-2.17 Vで、4-クロロベンゾニトリルが-2.03 Vである)。

カルバゾールで反応を行っているのは銅上の配位子によって励起波長が変わるからである。本触媒系では銅触媒が光酸化還元触媒として働くとともにカップリングの反応中心としても働いているため、基質の選び方も重要となる。((m-tol)3P)2Cu(carbazole)は280-350 nm(近紫外光)辺りに最大吸収を持つらしい。

銅触媒を用いた光励起によるカルバゾールとアルキルハライドのカップリング反応

FuとPetersらは上記のScience誌での報告の翌年に、同様の系で2級ハロゲン化アルキルやヨウ化ネオペンチルなどの混み合ったアルキル化剤による、カルバゾールのアルキル化反応を報告している。

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アリールハライドがアルキルハライドに置き換わっただけで反応機構は全く同じである。0度という温和な条件下でも混み合ったアルキル化反応が行えることがポイント。銅触媒がないと反応はほとんど進行せず(恐らく光照射だけでアルキルハライドからラジカルが生成するため若干は進行するのだろう)、光照射や塩基の添加がないと反応は全く進行しない。ヨウ化アルキルの代わりに臭化アルキルを用いることも可能である。

銅触媒を用いたインドール、イミダゾール類とアリールハライドの光励起ウルマンカップリング反応

最初の報告はカルバゾールのみでの報告だったが、それをインドール、イミダゾール、ベンズイミダゾールに拡張した反応が報告された。

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カルバゾールと同じ条件(水銀ランプ)では反応は効率よく進行しない(20%以下)が、照射する光を更に短波長の紫外線254 nmとすることで反応が進行する。ヨウ化アリールのみならず、臭化アリールや4-クロロベンゾニトリルも反応に用いることが可能である。また、臭化アルケニルや臭化アルキニルも反応に用いることが可能である。

銅触媒を用いたアミドの2級アルキル化反応

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1級アミドの2級アルキル化反応も254 nmの光を照射することで同様に進行する。アミドとしては脂肪族、芳香族のいずれもが適用可能であり、光励起に芳香族共役系は必ずしも必要ではないことが示された。

1級アミドが1回アルキル化されて2級アミドとなった段階で立体障害などの要因により反応が止まるが、比較的空いている環状の2級アミドを用いればこれのアルキル化反応も進行する。

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反応速度はヨウ化アルキルは臭化アルキルの10倍速く反応が進行し、ヨウ化アルキルや臭化アルキルは塩化アルキルの50倍以上速く反応する。

可視光照射化での3級塩化アルキルの不斉アミノ化反応

2016年、Science誌に3級塩化アルキルの不斉アミノ化反応が報告された。R1、R2はともにアルキルでも高エナンチオ選択性を維持する。

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本反応のポイントはラセミ体の3級ハロゲン化アルキルから不斉4級炭素を構築した初の例であるとともに、可視光で銅触媒が励起されて反応が進行していることである。なおこれとは全く異なる反応ではあるが、Fuらは同様のラジカル機構でラセミ体の2級ハロゲン化アルキルからの不斉反応の進行を多く報告している。

不斉が出ていることは3級ラジカルが生成した後に、優れた不斉場を構築している銅触媒がそれと反応していると説明する他ない。また、可視光励起には反応に関わるアミンとともに銅触媒に配位しているホスフィン配位子も重要であることがわかる。なぜなら、((m-tol)3P)2Cu(carbazole)は近紫外領域で励起し、可視光では励起しなかったからである。

不斉収率が速度論的光学分割により得られていないことは1.2当量のラセミ体から95%収率、95%eeが得られていることから明らかである。また、反応系中で残った基質の光学純度を調べると完全なラセミ体であることから速度論的光学分割自体が起こっていないことが示唆される。基質としてラセミ体ではなく、どちらのエナンチオマーを用いても同等の収率、不斉収率で反応が進行し、残った基質は全くラセミ化していないことから、C-Cl結合の開裂は不可逆的に進行しており、一旦ラジカルが生成すると原形には戻らず(戻っていればラセミ化するはずである)、アミノ化まで進行してしまうことがわかる。

得られる知見

  • 1価銅は光励起して他の化合物に1電子を渡し(1電子還元し)、自身は2価銅となる。
  • 2価銅は炭素ラジカルとカップリング反応を起こしうる。このとき、配位子により立体選択性のコントロールが可能である。
  • 励起波長は銅触媒上の配位子によってかなり変化する。

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